レーサー班 群馬遠征記

レーサー班 群馬遠征記
あるいは甘く危険なズンダラムード

我々は、ジョイナスの中で(何を勘違いしたのか)一生懸命自転車をこいでやろうという人々だ。このレーサー班は今までにも神戸や筑波や千葉など、全日本的な規模をもっておんぼろボンゴ車である「ベト」を使い、「いっちょうやったろやんけわれー」という館林さんの言葉を金言として頑張ったりもしてきたのだ。そのうちには森原先輩の素晴らしい数々の成績や、大ボケかましなどが走馬灯のように甦ったりもする。

さて、この度レーサー班は群馬CSCのレースに出ようということになった。そこで、レーサー班一のしっかり者?森原先輩が申込書をまわしてくれた。

白田「先輩も出るんでしょう?」

森原「ととうぜんだぁ」

しかし、蓋を開けてみると申し込んでいたのは白田だけであった。 たたでさえおこりっぽい白田は完全に怒り狂い、

白田「ちくしょー、ざけんじゃないぞ!!」

と、先輩たちに暴言を吐きまくるのであった。しかし、白田は単純なので、すぐにあきらめた。

そうこうしているうちにレースの日は近付き、

森原「金曜日の夜、出るからね。」

と、連絡があった。しかし白田はバイトで遊ぶ金を稼ぎまくっているのと、自分勝手であったので、

白田「いやーぁ、申し訳ありませんが、ぼくバイトがあって11:30まで出られないんです。」

と、いやに丁寧に手前の都合をいうのであった。唯一出場する奴を置いていっては、レーサー班なのか、道路工事のおにいちゃんの移動なのか分からなくなってしまうので、先輩たち+永嶋君はやさしくも、白田の都合に合わせて11:30に小平分校の生協前に集まってくるのであった。

こうして小平を出発したのだが、危険きわまりないオンボロ「べと号」を操ることができるのは、林先輩しかいない。それでも真夜中から3時間もかかろうかという長丁場に不安を感じた林さんは、免許をもっている森原さんに

林「もりはらー、おまー運転してくれるんやろなーぁ」

といったが、その答えはいやに明るく

森原「おおっ、いやーっ、免許わすれちゃってさー ははっ 」

というものであった。林さんは結局、朝の3時に月夜野駅に着くまで運転していた。もちろんその間白田と永嶋は惰眠をむさぼったり、かってなことばっかり言っていたのは想像に難くないことであろう。何にしろ、五体満足に月夜野駅に着いたので、まあ、なにか食べようか何か飲もうよという雰囲気なった。ここで森原さんはとってもやさしいので、「冷えた体でもあっためようよ」ってなかんじでカセットコンロをもってきてくれていた。しかし、まわりの3人の期待に応じようと、コーヒーの素をもってくるのを忘れてくる配慮までしてくれていた。

この次に問題となったのは、林先輩のイビキであった。「ああっしまった!!!」という感じで目を見合わす3人。

 林「ふふっ、イビキかいてもしらんぞぉー」と不敵な笑いをこぼす先輩に

永嶋「これはもぉ、早く寝るっしかないですよねぇ・・」

と消極的な防御法を講じるしかなかった。

翌朝真っ先に起きたのは当然なんにもしなかった白田であった。他のみんながまだ寝ているのに白田はごそごそやって他の人に「おれはおきたぞ」と、知らせてあげて、暇な白田は、新聞を買いに月夜野駅にいくのであった。大変立派な駅で、森原さんが 「これって立派な体育館だなぁ」と感心したぐらいである。新幹線も止まるんだそうだ。しかし朝の7時だって言うのに乗客はおろか駅員までいない。新幹線が止まる無人駅だというのも乙なものだと白田は思った。

それから1時間たって、白田はようやく新聞を買うことができて、これを持って車に乗り込み、ガサガサ言わせてみんなに「起きろ、起きろ、起きろ」と暗に仄めかすのだった。

白田の「起きろ」攻撃で大抵の人は起きてきた。ここで林さんの名誉において言うならば、昨夜は全くイビキの「キ」の字もしなかったことを記しておこう。

そうしているうちに「はらがへった、はらがへった」攻撃が始まり、駅のうどんやにでも行こうということになった。ここでも森原さんはどのような飲み物で朝のスタートを切るかという大きな問題に直面して、散々迷ったあげく、いちごジュースを買った。とっても可愛い先輩である。

うどん屋のオバチャンに「うどんくれ」といったら、

オバチャン「あらまー、まだうどんにえとらんからまっとって」

とのことであった。仕方なく駅を見回すと他のサイクリストがきていたそこへいって話しかけると、秩父の人で、これから自転車で会場までいくのだそうだ。何か申し訳ないような気分になっていると、

オジチャン「チャンピオンクラスに出るんだ」

というので、ますますこちらは恥ずかしくなってきてしまった。その時うどんやのオバチャンが「うどんができるよーっ」とわざわざいってくれたので、我々はうどんやに「うどん、うどん」といいながら走っていった。

うどんを注文するとオバチャンは永嶋くんの「きつね」というリクエストを無視して、ぼっちゃりとテンプラを入れてくれた。

永嶋「オバチャン、僕きつねたのんだんだけど・・・ 」

というと、素早くそのテンプラをもとのケースに戻そうとする。 永嶋は大らかな人であったので、「いいよ、いいよ」といってテンプラうどんを食べた。ここでも森原さんは散々迷ったあげく山菜そばを食べた。

めしを食えば出発だ。一行は山をひたすら上り群馬CSCに着いた。その後は白田の出走までなーんにもすることはないので、思い思いにチャンピオンクラスの応援をしたり、バナナを食ったり、寝たりしていた まわりは一面レーサーの格好をしたオジチャンばっかりであり、ここでならあのドハデなウエアーも決して浮くことはないであろう。

さて、白田の出番がきた。白田は日頃から「おれは、身体を鍛えている」と、はっきり言い切っていたので、周りの人達も、「そんなら勝てる」とはっきり思っていた。しかし、結果は39位だったのだそうだ。「なんだこりゃ」と思っていても、先輩たちはやさしく「良くやった」と白田を誉めてくれた。一部に白田がゴールするとき、「白田はにやけていた」と証言するひとがあるが、僕は神に誓って「あれは引きつっていたのだ」と言いたい。サングラスを掛けていたので、涙に濡れた僕の瞳が見えなかったのだろう。しかし、白田はゴールしてのち、割と元気良く起き上がって、「さぁ、はしったらかえるぞー」と「カエルマン」に変身した。

白田「いゃーっ、けがしなくってほんとによかったよ。なんてったって他の連中、カーブでポンポンとんじゃってるんだもん。痛いよね、ありゃー」

などとニコニコしながら言うのでは、まだまだ勝利への道は遠いと言わざるを得ない。

用が終わればさっさと帰る。再び「ベト」で高速道路をひた走るのだが、横風でベトが揺れる、揺れる。まだまだ白田の安全は保証されていないようだ。白田はベトの中で着替え。走る車の中でオールヌードになってしまった。「こっちみるんじゃねーよ」とみんなにきたないものを見せないように配慮する白田の心遣い。しかし、白田がジーンズをはき終えないうちに森原先輩はしっかりこっちを見ていた。

帰りは渋滞に巻き込まれてしまった。

林「この辺、今ちゃんの住んでいるひばりが丘のそばなんやで」

白田「ひばりが丘か・・・英語にするとビバリーヒルズですね。」

などとみんな疲れているのに下らないギャグをいったので白田はすっかり浮いてしまい、仕方なく夕暮れだというのにサングラスをかけて、口笛を吹いてみたりするのだった。

to Hideaki's Home to Appendix

白田 秀彰 (Shirata Hideaki)
法政大学 社会学部 助教授
(Assistant Professor of Hosei Univ. Faculty of Social Sciences)
法政大学 多摩キャンパス 社会学部棟 917号室 (内線 2450)
e-mail: shirata1992@mercury.ne.jp