* Sony Computer Entertainment America. Inc. v. Connectix Corp.,*
2000 U.S.App. LEXIS 1744.

白田 秀彰

[注意!!] この判決文翻訳(だと思われるもの)は、2002年2月末日に私がハードディスクを整理していたときに発見したものです。なにかの研究会の資料として用いるために準備したまま、忘れてしまっていたようです。 したがいまして、翻訳の品質については保証の限りではありません。また引用して用いる事も避けてください。 とはいえ、せっかく書いたものですし、学生さんの参考程度にはなるかと思いまして、公開する事にしました。

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1 事件の概要

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原告Sonyは、PlayStationおよびPS上で使用されるゲームの開発者であり、 製造者であり頒布者である。原告は、 PS上で使用することができるゲームの製造に関するライセンスを他の会社に与えてい る。PSは、本体、コントローラー、そしてソフトウェアから構成されており、 すなわち本質的には小型のコンピュータである。本機は、 テレビジョンの上で三次元ゲームを実行することができる。 PS用ゲームはCDによって供給され、本体上面から装着される。PSは、 ハードウェアとファームウェアとして知られる読み出し専用半導体メモリROMに書き 込まれているソフトウェアから構成される。

ファームウェアは、Sony BIOSと呼ばれる。原告は、 このBIOSに対して著作権を保有している。原告は、 本件に関してPSのいかなる構成要素に対しても特許権を主張していない。 PlayStationは、原告の登録商標である。

被告ConnectixのVGSは、PSの機能を真似るソフトウェアである。すなわち、 消費者は自らのコンピュータにVGSを導入することで、 コンピュータのCD-ROMドライブからPS用ゲームをロードすることができる。すなわち、 VGSは、PSのハードウェアとファームウェアを真似ることができる。VGSは、 PS用のゲームをPSと同じ程度に快適に実行することはできない。 差止命令発給の時点で、被告は、VGS for Macを販売していたが、 VGS for Windowsはまだ販売していなかった。

1.1 リバース エンジニアリング

著作権法によって保護されたソフトウェアは通常の場合、 著作権法によって保護された要素と保護されていないすなわち機能的な要素を含んで いる [1]。 著作権によって保護されている製品と互換性を維持しなければならない製品を開発す る場合、著作権によって保護された製品の機能的な要素を解析するために、 ソフトウェア開発者は、 しばしば著作権法によつて保護された製品をリバースエンジニアリングしなければな らない。

リバースエンジニアリングは、 ソフトウェアの機能的要素にアクセスするためのいくつかの手法を含む。(1) プログラムに関する文献を調査すること、(2) コンピュータ上でそのソフトウェアを使用することで動作中のプログラムを観察する こと、(3) プログラムに格納された個々のコンピュータへの命令に対する静的調査を行なうこと、 (4) コンピュータで動作しているプログラムのコンピュータへのここの命令に対する動的 調査を行なうことである。(1)は、もっとも効果的でない。というのは、 個々のソフトウェアマニュアルはしばしば実際の製品と異なった記述がなされている からである。(1)の手法はこの事例においては特に効果的でない。というのは、 原告はPSに関するそのような情報を提供していないからである。(2)(3)(4)の手法は、 アクセスを求めている人物にたいして目的となるソフトウェアをコンピュータにロー ドすることを要求する。この操作においては、ランダム読み出し可能メモリ(RAM) へ著作権によって保護されたプログラムをコピーすることを必要不可欠とする。

(2)の手法、すなわちプログラムの観察はいくつかの形態によってなされうる。 例えばワープロ、表計算、ゲームのようなソフトウェアのいくらかの機能的要素は、 コンピュータ画面に表示される画像を観察することで判断できるかもしれない。 もちろん、そのような状況におけるリバースエンジニアリングは、 オブジェクトコードそのものを観察しているわけではない。 コンピュータで実行されるコードの画像上の表現を観察しているにすぎない。 ここにおて、ソフトウェアプログラムは、 エンジニアがコンピュータを起動するたびに複製されていることになる。

他の形態による観察はもうすこし侵入敵である。 OSやシステムインターフェィス手続や、他のSony BIOSのようなプログラムは、 それらが機能している間利用者からは観察することができない。 観察のための一つの方法が、 それらのプログラムをエミュレートされた環境において実行することである。 Sony BIOSの場合、このことは、 そのBIOSをPSのハードウェアの動作を真似たソフトウェアを実行しているコンピュー タの上で、デバッガとして知られるソフトウェアとともに、 そのBIOSを動作させることを意味している。デバッガは、 コンピュータ上の他のプログラムとBIOSとの間で交わされる信号を観察することを可 能にするものである。

この後者の手法においては、 PSに格納されたSony BIOSをコンピュータにコピーすることが要求される。 Sony BIOSは、エンジニアが彼らのコンピュータを起動するたびに複製され、 コンピュータはそのプログラムをRAMに格納する。これらすべての複製は中間的 (intermediate)なものである。すなわち、原告が著作権を保有する素材は、 被告の最終的な商品すなわちVGSには複製されないのである。

(3)と(4)の手法は、 オブジェクトコードをソースコードへとディスアセンブルすることを構成する。 いずれの場合においても、エンジニアは、 1と0から構成された機械のみが読むことのできるオブジェクトコードを単語および数 学的なシンボルで構成されたソースコードに翻訳するためにディスアセンブラを使用 する。この翻訳されたソースコードは、 そのもともとオブジェクトコードを生成するために使用されたソースコードに類似し たものである。しかしながら、ソースコードの機能について理解の助けとなるように、 ソースコードの起草者によってつけられたコメントを欠くものである。 静的なコンピュータ命令の観察、すなわち(3)においては、エンジニアは、 オブジェクトコードの全体あるいは部分をディスアセンブルする。 ディスアセンブルの過程において目的となっているプログラムは全体的に一度あるい は繰り返し複製されなければならない。動的なコンピュータ命令の観察において、 すなわち(4)においては、 エンジニアは目的となっているプログラムを動作させながら、 ステップごとにの一部分ずつディスアセンブラを使用しながら解読していく。 この方法においてもプログラムの複製が必要であり、 起動時毎に行われる複製に加えて、 この操作が行なわれる回数に依存した回数複製が繰り返される。

1.2 ConnectixによるSony BIOSのリバースエンジニアリン グ

被告は1998年7月1日からVGS for Macの開発を開始した。 PSのエミュレータを開発するために被告は、 PSのハードウェアとファームウェアのいずれをも複製する必要があった。

被告は、最初にPSのハードウェア真似ることに決めた。このために、 被告のエンジニアは、PS本体を購入し、 器機のなかに組み込まれていたチップからSony BIOSを抽出した。 被告のエンジニアは、自らのコンピュータにSony BIOSを複製し、 被告によって開発されたVGSのハードウェアをエミュレーションするソフトウェアと ともにSony BIOSの動作を観察した。 BIOSとハードウェアエミュレーションソフトウェアとの間で交換される信号を観察で きるようにするデバッギングプログラムの使用を通じてエンジニアはSony BIOSの動 作を観察することができた。この過程のあいだ、被告のエンジニアは、 自らのコンピュータを起動するたびにSony BIOSを繰り返し複製し、RAMに読み込んだ。

一旦かれらがハードウェアエミュレーションソフトウェアを開発してしまうと、 被告のエンジニアは、 エミュレーションソフトウェアをデバッグするためにまたSony BIOSを使用した。 そうするなかで、彼らはSony BIOSを繰り返し複製し、 Sony BIOSの部分的一部をディスアセンブルした。

被告は、Sony BIOSをVGS for Winを開発するのにも使用した。とくに、 かれらはSony BIOSを日々RAMに複製し、 Sony BIOSをVGS for Winのための特定のWidnowsシステムを開発するために使用した。 被告はその時点でみずからのBIOSを保有していたにもかかわらず、 被告のエンジニアはSony BIOSを使用した。なぜなら、 それは被告のBIOSが含んでいないCD-ROMのコードを含んでいたからである。

VGSの開発の初期段階において、被告のエンジニア Aaron Gilesは、 インターネットからダウンロードしたSony BIOSのコピーの全体をディスアセンブル した。かれは、 彼が書いたディスアセンブラのテストをする目的に限りこれを行なった。 ソースコードのプリントアウトは、VGSエミュレータの開発には使用されなかった。 被告のエンジニアは、当初、 このSony BIOSのコピーをリバースエンジニア過程を開始するために使用した。 しかし、後にそれが日本語用のバージョンであることがわかり使用を止めた。

VGSの開発の間、被告は原告と連絡をとり、 VGSの開発を完全なものにするための技術的協力を求めた。 被告と原告の代表者は1998年9月の間会談をもった。 原告は被告の支援の要請を拒絶した。

1998年12月あるいは1999年1月には被告はVGS for Macの開発を完了した。 被告はこの新しい製品を1999年1月5日のマックワールドエキスポで発表した。 マックーワールドで、被告はVGSをPSエミュレータとして販売した。宣伝文句は、 VGSが利用者に対して仮にPS本体をもっていないとしても好きなPSゲームを、 自らのコンピュータの上で楽しめることを謳っていた。

1.3 訴訟履歴

1999年1月29日、 原告は著作権侵害およびその他の訴訟原因を理由に被告に対する訴訟を提起した。 原告は続いて著作権侵害と商標権侵害を理由として暫定的差止命令の発給を求めた。 地裁は、この請求をみとめ、被告に対して差止命令を発給した。すなわち、 (1) VGS for Winの開発の過程においてSony BIOSを複製し使用することの禁止。

(2) VGS for MacおよびVGS for Winの販売禁止である。

地裁はさらに被告が保有していたSony BIOSをすべて押収し、 Sony BIOSと結合するまたはそれに基づくすべての作品の複製物を押収した。

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2 判旨

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この事件を審理するにあたって、なにが表現として保護され、 なにが機能として公にアクセスすることができる要素であるのかを決定するために、 われわれは、 コンピュータとそのソフトウェアに関する著作権法の原理について再検討する。

Sony Computer Entertainment Inc. (SCE)はこの著作権侵害訴訟を起こした。 原告 SCEは、コントローラを備えた小さなコンピュータであるPlayStation (PS) 器機を生産販売している。それはテレビジョンに接続され、 ゲームを収めたCDをそのPSに挿入することでゲームをすることができるものである。 原告は、 PSを制御するために用いられる基本的I/O機構すなわちBIOSについて著作権を保有し ている。原告は、本件においては、特許権に関する主張を行なっていない。

被告Connectix CorporationはVirtual Game Station (VGS) と呼ばれるソフトウェアを開発販売している。このVGSの目的は、 通常のコンピュータの上でPSの機能を真似ることである。それゆえ、 VGSを購入したコンピュータの所有者は、 自己の所有するコンピュータ上においてPSのゲームを楽しむことができる。VGSは、 原告が著作権を保有するいかなる要素も含んでいない。しかしながら、 VGSの開発の手順において、 被告が原告のPSがどのように機能しているかを解析するためにリバースエンジニアリ ングを行なう過程において、被告は、原告の著作権のあるBIOSを繰り返し複製した。

原告は、著作権侵害を訴え、暫定的差止命令の発給を求めた。地裁では、 被告の中間的複製が連邦著作権法107条(17 U.S.C. S.107) に規定されている公正使用に該当しないという判断にもとづいて原告の勝訴の可能性 があると結論した。地裁は、被告のVGSの販売と、 他のVGSの開発過程において原告のBIOSを複製し使用することを差し止めた。

被告はこのため高裁に上訴した。われわれは、地裁の決定を覆し、 差止解除となった理由について述べる。 リバースエンジニアリングの過程においてなされた原告のBIOSの複製および使用は、 公正使用によってみとめられている。すなわち、 PS用ゲームを動作させるための侵害していない製品であるVGSを被告が作成すること を認めるために不可欠だからである。仮にBIOSの複製自体が侵害であったとしても、 被告によってなされたすべての中間的な複製は、差止命令の発行を支持しない。

地裁はさらに、被告によるVGSの販売が、連邦商標法(15 U.S.C. S.1125) のもとで原告のPlayStationという商標の名声を汚す(tarnish) とする原告の主張の勝訴の可能性を認めている。しかし、 われわれは同様にこの判示についても覆すものとする。

差止命令による救済を求める訴えにおいて優勢であるためには、Sonyは、 「訴訟目的について勝訴の可能性および、 回復不能な損害の可能性あるいは訴訟目的に関連する深刻な疑問が生ずることを、 差止命令が発給された場合に明確に生じる不都合な要素の均衡とともに」 説明することが要求される [2]。 われわれは、暫定的差止命令を「地裁が裁量権を濫用したか、 誤った法的基準に基づいて判断を行なったか、事実認定に明らかに誤るがある場合」 にのみ覆すことができる。

われわれは、差止命令による救済の範囲について、裁量権の濫用の観点から審査する。 被告は、 原告の著作権法によって保護されたBIOSをVGSの開発過程において複製したことを認 めている。しかしながら、それは公正使用によって保護されていると反論している。 被告はまた地裁の結論、 すなわち被告のVGSがPlayStation商標を汚染したとする可能性を原告が立証したとの 結論に対して異議を申し立てている。 われわれはこれらの点についての検討を以下で行なう。

2.1 公正使用

コンピュータソフトウェアの特徴のために、 公正使用の問題が現在の文脈で検討されることになった。 プログラムのオブジェクトコードそのものは、 表現として著作権法によって保護されることに疑いはない。しかし、 プログラムはアイデアや機能の実行といった著作権によって保護されない要素もまた 含んでいる。オブジェクトコードを人間が読むことは不可能である。 保護されないコードのアイデアや機能といったものは、それゆえ、 調査や翻訳といった作業を経なければ発見することができない。 そしてその翻訳の過程においては、 著作権によって保護された著作物の複製が必要になる。われわれは、それゆえ、 この事件の事実およびわれわれの前例に基づいて被告による原告の著作権によって保 護されたBIOSの中間的な複製および使用は、 Sonyのソフトウェアの保護されていない要素にアクセスするという目的において公正 使用であったと結論する。

公正使用の全体的な枠組みに関する分析は、 制定法によって確定されている [3]。 われわれは、Sega Enters. Ltd v. Accolade inc. [4] において、 この制定法と公正使用の法理をコンピュータソフトウエアのディスアセンブルに適用 している。われわれの本日の決定の中心部分となるのは、 Sega事件において判示された以下の部分である。

ディスアセンブルは、 著作権で保護されたコンピュータプログラムにおいて実現されているアイデアや機能 的な要素にアクセスするためのただ一つの道であり、かつ、 そのようなアクセスを求めるための正当な理由がある場合、法律問題として、 ディスアセンブルは、著作物の公正な使用である。

Sega事件において、われわれは、 最終的な製品が著作権によって保護された素材を全く含まない場合においても、 中間的な複製は著作権侵害を構成することを認識した。しかし、 仮にそれがソフトウェアの機能的な要素へのアクセスを得るためである場合に 「必要不可欠」である場合には、この複製は、 それにもかかわらず公正使用によって保護される。 われわれがこの両者を区別するのは、著作権法が表現のみを保護するものであり、 ソフトウエアのアイデアや機能的な要素を保護するものではないからである。

われわれはまた、コンピュータプログラムについて、この「アイデア/表現の二分法」 が独特の問題を生じさせることを認識した。すなわち、 コンピュータプログラムは本質的に実用的な作品、すなわち、 課題を遂行するための作品であるということである。そうであるから、プロクラムは、 効率の観点によって、あるいは互換性の必要性および産業上の必要によって、 実行されるべき機能によって秩序付けられた多くの論理的、 構造的そして視覚的な要素を含んでいる。それゆえ、公正使用の法理は、 著作権で保護されたコンピュータプログラムに具体化されたアイデアおよび機能的要 素への公衆のアクセスを認めている。この考え方は、「究極的な著作権法の目的は、 技術的な創作性を奨励することで、一般的な公共の利益を実現すること」 と一貫している [5]

われわれは、制定法に定められた公正使用の要素をSega判決に依拠しながら検討する。

2.1.1 著作物の性質
制定法における二番目の要素である著作物の性質という点についてのわれわれの検討 において、「いくつかの作品は、 他のものよりもより著作権による保護の目的の中心部分に近い」 ことを認識している [6]。 Sony BIOSは、中心部分から遠いところに位置する。というのは、 「複製すること無しに調査することができない保護されない要素を含んでいるからで ある」[7]。 それゆえ、結果的に、 それが、「伝統的な文学的作品よりも低い程度の保護しか受けられない」 ことを容認した。この基準を適用することにより、被告のSony BIOSの複製は、 必要不可欠なものであり、公正使用に該当するものと結論した。

Sony BIOSが保護されない要素を含んでいることについては争いがないところである。 また、 Sony BIOSを複製しないことには被告がその保護されない要素にアクセスできなかっ たこともまた争いがない。原告は、Sony BIOSの機能に関する技術的情報は、 公に提供されていないことを認めている。Sony BIOSは、内部的なOSであり、 その機能を反映したような画面表示を行なわない。結果的に、 被告がSony BIOSの機能的要素にアクセスするためには、 Sony BIOSのコンピュータへの複製を伴うリバースエンジニアリングを用いなければ ならなかったのである。Sonyはこの前提について争っていない。

ここで問題点は、 Sony BIOSの内部にある保護されていない機能的要素へのアクセスを得るために、 被告が用いたリバースエンジニアの手法は必要不可欠であったのか、 という点にうつる。われわれはこの点について必要不可欠であったと認定した。 被告は、いくつかのリバースエンジニアリングの手法を最よしていた。 それぞれの手法のいずれにおいても、 被告が原告の著作権によって保護されたものを中間的に複製すること必要としていた。 それら手法のいずれについても、フェアユースが適用されないとは解釈され得ない。 Sega事件においては、ディスアセンブルを明示的に容認している。われわれは、 エミュレートされたコンピュータ環境において著作権によって保護されたソフトウェ アを監視することをSega事件と区別すべき理由がないと考える。

いずれの手法においても、リバースエンジニアリングにおいては、 著作権によって保護された要素も、 保護されていない要素も複製しなければならないからである。 この中間的がこの中間的な侵害の訴えに関する最重要点であるので、 またいずれの手法においても複製が必要であるがゆえに、著作権法の検討において、 これらの手法においていずれを好みいずれを好まない本質的な理由を見出さない。 被告は、Sony BIOSの機能的な要素を観察するために、 真似られた環境においてSony BIOSを観察したという証拠を提出している。 この方法のリバースエンジニアリングが失敗したのち、被告は、 Sony BIOSに含まれているアイデアを直接的に観察するために、 Sony BIOSの分離された部分的な一部をディスアセンブルした。われわれは、 Sega 事件の意味付けの範囲内において、 これらの様態での中間的複製は必要不可欠であったと結論した。

われわれは、地裁が採用した手法に従うことを否定する。地裁は、 機能的要素にアクセスするために被告がSony BIOSを複製せねばならなかったかにつ いて集中しなかった。代わりに、 被告が自らの製品を開発するためのsony BIOSの複製と使用がSega事件の範囲を超え るものと考えた [8]。 この理由付けは、説得的でない。Segaが、 コンピュータプログラムの保護されない要素を学習し研究するために参照したことは 事実である。しかしSega 事件においては、 AccoladeによるSegaのゲームカートリッジの複製、観察およびディスアセンブルは、 たとえAccoladeがコンピュータにディスアセンブルされたコードをロードし直しても、 プログラムを変更したり改変したりしてその結果を研究することで、 Genesis機のためのインターフェイスに関する技術詳細を発見するために実験したと しても、 フェアユースとしてみとめられている [9]。それゆえ、地裁が採用した、 学習と使用の間の区別はSega判決においては支持されていない。

それに加えて、リバースエンジニアリングは、技術的に複雑で、 しばしば侵入的な過程である。中間的な侵害の請求の文脈に限定する限り、 学習と使用の間における語義上の区別は、技巧的なものであると判断する。それゆえ、 この区別を公正使用を判断する基準として採用することには否定的である。

われわれはまた、Sonyによって申し立てられた議論、すなわち、Connectixは、 真似られた環境において、Sony BIOSを繰り返し観察したことによって、 すなわち繰り返しSony BIOSを複製したことによって、 Sonyの著作権を侵害しているという申立てについて拒絶する。 これらの中間的な複製は、Sonyが申し立てているように、 Sega事件における基準において不必要であったとはいえない。というのは、 Connectixのエンジニアは、 Sony BIOSを最初に全部ディスアセンブルすることも可能であり、 そうして自らのConnectix BIOSを書くことも可能であったし、 そしてそのConnectix BIOSをVGSハードウェアエミュレーションソフトを書くことに 使用することもできたからである。われわれは、 この上訴の限定された目的に関する事実上の主張について受け入れた。

われわれがそうしたところで、しかしながら、Sonyを支持することには繋がらない。

Sonyは、ConnectixのSony BIOSのリバースエンジニアリングは、 以下の理由から不必要だったと考えられるべきだと主張している。すなわち、 仮にConnectixがSony BIOSの完全なディスアセンブルを実行していたなら行われたで あろう複製の回数よりも、 真似られた環境のもとでSony BIOSを動作させて観察すると決定した方がより多くの 中間的複製を行なう結果となるからであると。この論理に基づけば、すくなくとも、 Sega事件判決での意味においていくらかの中間的な複製は不必要であったといえる。 しかし、この解釈は、Sega事件の適用範囲をはるかに広げてしまうことになる。 Sega事件における不必要性とは、その手法の必要性に関するもの、 すなわちディスアセンブル、であって、 その手法が適用された回数の必要性ではないからである。いずれにしても、 Sonyによって提出された解釈は、公正使用の基準としては出来の悪い基準である。 Sony BIOSの中間的な複製のほとんどは、 エンジニアが自らのコンピュータを起動させたときに行われたものであり、 Sony BIOSはRAMに格納されたのである。しかし、仮にConnectixのエンジニアが、 真似られた環境においてSony BIOSを観察する期間の間を通じて彼らのコンピュータ をつけたままにして置けば、より少ない回数複製されることになっただろう。

覚え書きに詳細に述べられている、 ソフトウェア会社のエンジニアリング上の解決を監督する方向にわれわれが傾くとし ても、われわれの著作権法の適用は、そのような区別を採用しなかった。 そのようなルールは容易に恣意的変更を加えられうるだろう。より重要なことには、 Sonyによって申し立てられたルールは、 いずれにしても保護される要素および保護されない要素を複製せざるえない二つの選 択肢に直面したソフトウェアエンジニアに対して、 しばしばもっとも効果的でない解決法を採用させることになる。 (いうまでもなく少ない複製回数での解決がもっとも効果的な場合には、 エンジニアは当然その手法を採用するだろう) これはまさに、 利用されるように配慮されたアイデアや事実に著作権の保護を及ぼすことを禁止する という努力を無に帰するものである [10]。そのような手法は、 著作権法によって保護されたプログラムに含まれているアイデアへの公衆のアクセス の道に人工的なハードルを設置することになる。これらへの著作権の保護は、 議会によって明確に拒否された著作権の保護にかかるものである。われわれは、 この事件においてそのような障害を設置することには賛成しない。 仮にSonyが自らのソフトウェアの機能的要素に合法な独占を獲得したいと望むならば、 それは、より厳格な特許法による基準によって満足されるべきである。 この事件においてSonyはそうしていない。それゆえ、第二の制定法の要素は、 強くConnectixに有利である。

2.1.2 使用された実質的な部分の量
全体として著作物に関連して、 使用された部分の量と実質性という制定法に示された第三の要素について検討すれば、 Connectixは、Sony BIOSの部分をディスアセンブルし、 Sony BIOSの全体を繰り返し複製した。この要素はそれゆえ、Connectixに不利に働く、 しかしわれわれがSega 事件で結論したように、 最終製品がそれ自体として侵害した著作物を含んでいない場合の中間的な侵害におい ては、 この要素は非常に小さな重要性しか持たない [11]

2.1.3 使用の目的と様態
第一の要素、すなわち使用の目的と様態について。われわれは、ConnectixのVGSが、 単にもともとの作品の目的を代替することを目指したものか、 あるいはより一層の目的異なった性質においてなにか新しいものを追加したのか、 すなわち最初の作品に対して、新しい表現、意味付け、 メッセージにおいて変容をもたらしたのかを検討する。言葉をかえていえば、 新しい作品がどの程度どのように変化したものであるのかということである [12]。 最初に検討すべきこととして、われわれは、 地裁が誤った法的基準を適用したものと結論した。すなわち、地裁は、 Sony BIOSの複製においてのConnectixの商業的目的が「不公正の疑いがつよい、 すなわち、特定の商業的使用の性質によって反駁されうる」としている。 しかしながら、Sega事件以来、最高裁判所は、 公正使用の分析における第一と第四の要素に適用されるものとしてのこの疑いを拒絶 している [13]。代わりに、 ConnectixのSony BIOSのコピーが商業目的だったことは、 公正使用を認定するのに不利になる傾向をしめす別個の要素に過ぎないとしている。

われわれは、ConnectixのVGSは、控えめに変化しているものとみた。その製品は、 新しいプラットホームすなわちパソコンを提供するものである。そのうえで消費者は、 PS用に開発されたゲームを楽しむことができるのである。この発明は、 新しい環境においてゲームを楽しむ可能性を提供するものである。とくに、それは、 PSとテレビが使用できない環境において、 しかしCD-ROMを備えたコンピュータがある場所で、 ゲームを楽しむことができるものである。より重要な点は、 VGSとPSの間で用途と機能において類似した点があるにもかかわらず、 VGSは全体として新しい製品であることである。 コンピュータスクリーンに表示される映像的な表現に、 コンピュータを動作させるオブジェクトコードの組織と構造に、 ソフトウェアの表現的要素が存在している。 (直接にあるいは機械の助けを借りて知覚され、再生され、 あるいは伝達される著作者としてのオリジナルの作品に著作権の保護を拡張する) Sonyは、 VGSがSonyの著作権を侵害するオブジェクトコードそれ自体を含んでいることを述べ 立てていない。それゆえ、われわれは、 機能およびスクリーン表示の類似性にもかかわらず、 VGSプログラムのため完全に新しいオブジェクトコードを用いたConnectixの設計を、 変化的なもの(別個の作品)でないとみなすことは困難なのである。

最終的に、われわれは、ConnectixのVGSにおける変更された程度を、 公正使用に対して不利に作用する商業性を含んで、 他の要素の重要性よりも重く判断しなければならない。 Connectixの著作権法によって保護された素材の商業的な使用は、 単に中間的なものであり、それゆえ、間接的であり派生的なものに止まる。 それ以上に、Connectixは、 Sony PSのために製作されたゲームと互換性をもつように作成された製品を生産する ために、Sony BIOSをリバースエンジニアリングした。われれは、この目的は、 公正使用分析の第一の目的において合法的なものであることを認識している。 これらの要素を勘案した結果、われわれは、 公正使用の第一の要素はConnectixに有利である。

しかしながら、地裁は、 コンピュータスクリーンとテレビジョンとが相互に交換可能であることを理由に、 VGSは変更されたものではないと判断した。そして、Connectixの製品は、 それゆえ単なるSony PSの代替物 supplants にすぎないというのである。 上記に示した理由により、VGSは独立した作品であり、 PSの単なる代替物ではないゆえに、地裁の判断は、明らかに誤っている。 地裁は自らの結論に至るにあたり、 明らかにVGSそれ自体の特徴的な性質を考慮することに失敗している。 Sonyが依拠しているInfinity Broadcast Corp. v. Kirkwood [14] は同じ欠陥に捕らわれている。Infinity事件においては、 フォーマットの変更が有用なものであったとしても、 技術的には変換にすぎないものとしている。しかし、その事件において侵害した側は、 単に著作権で保護されたラジオ放送を取得して、 電話線で伝達したに過ぎないのである。そこには新しい表現はない。 したがってInfinity事件はわれわれの結論を変更するものではない。 Connectixの目的と性質は、公正使用を支持するものである。

2.1.4 潜在的市場に対する影響
われわれは、続いて第四の要素、 すなわち潜在的市場に対する影響についてConnectixに有利であると判断する。 この要素について、われわれは、 申し立てられている侵害者の特定の行為によって生じた市場における損失の範囲のみ ならず、被告によって行われた制限されていないで展開された行動が、 原本の潜在的市場への実質的に否定的な影響を及ぼしたかどうか [15] を検討する。それゆえ、 単なる補足物および代替物である作品は、 原作品の潜在的市場へ本質的に否定的な影響を与えることがおおい。逆に、 変形力のある作品はそうする傾向がすくない [16]

地裁は、ConnectixのVGSによって、 Sony PSに対するそのような代替効果が生じたと認定した。Sonyは、 PSの売上と利益を失ったと主張する。われわれは、 確かにそのようなことが生じただろうと認識した。 しかしVGSは単なる代替物ではなく、変化力のある製品である。ゆえに、 VGSはSonyおよびSonyがライセンスしたゲームが楽しまれるだろう市場における合法 な競争者である [17]。 この理由から、この競争から生じるSonyの側のいくらかの経済的損失は、 公正使用が認められない程度に重大なものではない。

Sonyはなるほど、 Sony製品およびライセンスしたゲームを実行する器機の市場において市場をコントロ ールすること目指すだろう。しかしながら、 著作権法はそうした独占を授与するものではない。 他者が競争することを不可能にすることで市場を独占しようとする試みは、 創造的な表現を振興しようとする制定法の目的に反するものであり、 公正使用の目的に抵抗する強力な衡平法上の基礎を構成することはできない。 このゆえ、この要素もまたConnectixに有利である。

これらの公正使用に関する4つの要素は、 著作権法の目的に照らして総合的に評価されなければならない。ここにおいて、 3つの要素はConnectixに有利であり、1つはSonyに有利である。しかし、 それはほとんど重要性をもたない。もちろん、 制定法上の要素は排他的なものではない。しかし、わわれは、 われわれの分析に影響を及ぼすような他の要素がまだ検討されていないとは考えられ ない。これらのことから、 われわれはConnectixによるリバースエンジニアリングのためのSony BIOSの中間的複 製は、法律問題として、 17 U.S.C S.107に規定された公正使用に該当するものと判断する。 その著作権侵害の申立てについて、Sonyは、 訴訟目的においての勝訴の可能性あるいはその利益に対応する不利益の均衡について 証明していない。それゆえ、われわれは、17 U.S.C. S. 117(a)(1) に基づいてConnectixによって申し立てられていた防御およびわれわれの不正使用に 関する著作権法の法理について言及する必要はない。

われわれは、著作権侵害を理由とした地裁の暫定的差止命令の発給を覆す。

2.2 商標汚染

地裁は、ConnectixのVGSの販売が、 SonyのPlayStationという商標を汚染したと認定した [18]。 地裁は、 その暫定的差止命令の基礎として、もっぱらSonyの著作権法上の訴えに依拠した。 しかも、暫定的差止命令の発給において商標汚染の点について検討していない。 記録によって確認されるすべての事実において地裁の決定を確定することができるに もかかわらず、われわれは、このもう一つの根拠(商標汚染) について認定することに否定的である。Sonyは、 商標汚染に基づく請求のそれぞれの要素について勝訴の可能性を立証していない。

商標汚染の請求において優勢であるために、Sonyは、 (1)PlayStatoinマークが有名であること、 (2)Connecixがその商標を商業目的で使用したこと、 (3)ConnectixによるPlayStationの希釈が行われたこと (4)ConnectixのPSロゴの使用がマークの価値を希釈し、 サービスや商品を特定する能力を減少させたこと、を立証しなければならない。 Connectixは(1)から(3)の要素については争っていない。 われわれは第四の要素についてのみ検討する。

Sonyは、希釈理論に関する商標汚染の法理に基づいて申立てを行っている、 この第四の要素については、PlayStationマークが、 Connectixによって使用されることで、 好ましくない影響を受けたか否かを示さなければならない [19]。地裁は、 VGSがPS機と同程度にはゲームを実行できないことを認定した。つづいて地裁は、 VGSのパッケージ上にこの点について警告が存在していたにもかかわらず 「ゲーム利用者は、両者(PS機とVGS)の区別について頓着しない」と結論した。 それゆえ、SonyのPlayStationマークは、 PSゲームをVGSにおいて行う消費者の側に生じた混同に基づいた否定的な結合により 好ましくない影響を受けたとした。

記録に示されている証拠は、そのような誤った結合が生じたことを支持していない。 地裁は、主として、Connectixによって提出されたインターネットに投稿された匿名・ 変名の一連の評価資料に依拠している。地裁が認識したように、これらの評価は、 権威のあるものでもなく、発言者が特定されたものでもない。より重要なことに、 コメントのプリントアウトは、 そのコメントが作成された文脈について明らかにしていない。この欠落は、 ゲーム利用者の側で生じている混同の程度を、 信頼できる程度に評価することを困難にしている。地裁はまた、 Sony側の依頼によって市場調査会社が行った二つの研究報告書を参照している。 これらの研究は、VGSとPSの品質の違いについて言及している。しかし、 誤った混同については、焦点を当てていない。それゆえ、 汚染の誤った混同理論にもとづくPlayStation商標のVGSの汚染について認定すること に関しては、明らかに誤った根拠として地裁の判決を否定するものである。

また、われわれは、二つのプラットフォームの違いがそれ自体として、 商標汚染を生じさせているとするSonyの議論に納得しない。(商標汚染は、 一般的に原告の商標が劣った製品に結合されたことによって、 公衆が原告の関係のない商品と被告の品質を欠いた商品を混同することによって商標 の価値が低下することによって生じる。) 決定とは別に、仮にわれわれが、 現在生じている状況において商標汚染を認めるとしても、 商標汚染を認定するのに必要な証拠は十分でない。商標汚染それ自体は、 被告の使用を通じて原告の商標が否定的な影響を受けていることによって認定される [20]。 ここに示されている証拠の範囲では、被告のVGSの能力にゆえに、 Sonyの商標が現にまたは潜在的に否定的に認識されているとすることを証明していな い。またその証拠は、その証拠能力について確実なものではない。 Sonyが提出した研究報告書、それらのいずれもが8人の参加者を含んでいるが、 かなり幅のある結論を示している。これらの証拠は、 VGSがそれ自体としてSonyの商標を汚染していることを結論するには不十分である。 それゆえ、Sonyの商標汚染の主張は、 暫定的差止請求を求めるのに十分なものではない。

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3 解説

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解説を書こうと思ったまま、止めてしまったようです。(2002年2月末日 / 白田)

Note

[1]
Sega Enters Ltd. v. Accolade 977 F.2d 1510 (9th Cir. 1993) see 17 U.S.C. S. 102, 著作権法はアイデアや機能を保護しない。
[2]
Cadence Design Sys. Inc. v. Avant! Corp. 125 F.3d 824.
[3]
17 U.S.C. S. 107.
[4]
977 F.2d 1510.
[5]
Sony Corp. of Am. v. Universal City Studios 464 U.S. 417.
[6]
Campbell v. Accuff-Rose Music, Inc. 510 U.S. 569.
[7]
Sega, 977 F.2d 1526.
[8]
Order at 17, 「彼らは、 Sony のコードを単にその概念を学習するためではなく、彼らは、 そのコードを彼らの生産物の開発の過程において使用したのである。」
[9]
977 F.2d 1520, 1515.
[10]
Feist Publications Inc. v. Rural Tel. Serv. Co. 499 U.S. 340.
[11]
977 F.2d 1526 Sony Corp of Am. v. Universal City Studios, Inc. 464 U.S. 417, 全体の作品を複製したという事実は公正使用を排除するものではない。
[12]
Campbell v. Acuff-Rose Music. 510 U.S. 569.
[13]
Acuff-Rose 510 U.S. 584.
[14]
150 F.3d 104.
[15]
Acuff-Rose 510 U.S. 590.
[16]
Harper & Row Pub. Inc. v. Nation Enters. Inc. 471 U.S. 539.
[17]
977 F.2d 1522.
[18]
15 U.S.C. S. 1125.
[19]
Hormel Food Corp. v. Jim henson Prods., Inc. 73 F.3d 497 etc.
[20]
73 F.3d 507.

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Return 白田 秀彰 (Shirata Hideaki)
法政大学 社会学部 助教授
(Assistant Professor of Hosei Univ. Faculty of Social Sciences)
法政大学 多摩キャンパス 社会学部棟 917号室 (内線 2450)
e-mail: shirata1992@mercury.ne.jp