16世紀中英語古詩の翻訳と詩作の試み (1)

16世紀中英語古詩の翻訳と詩作の試み (1)

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夏草の道をはるか見渡せば
風そよぐ木陰に乙女が佇んでいる
夏の日は若草を明るく染めて
彼の人の白き肌をほのかに照らす

彼の人は恥じらいに頬染めて
枝を飾るみずみずしい果実のよう
思い人は白雲のような羊を駆り
彼の人の待つ夏草の道をくだる

乙女は木陰から躍り出て白雲へ
空に上る雲雀のように軽やかに歌う
いとしい人よ 今こそ貴方に伝えましょう
いまや私はお年頃 村の釣瓶に背が届く

幼なじみの貴方は気づかないの?
若い男たちは噂して言うわ あの好い娘と
幼なじみの貴方だからいいましょう
花を摘み束にして通ってくる男もいるのよ

幼なじみの貴方の誘いを待っているのに
通ってくる男はいとしい人とは違う人
だからいいましょう 貴方が好き
この野の花をみな摘んで私に冠をくださいな

不意の雲雀の歌声に白雲はびっくり
風に吹き散らされてあちらへこちらへ
お付きの犬が飛び出して一声
黒い鷹のように巡って羊を集める

雲の間で若い男が杖をふる
さあ羊たち みんな集まれ僕はここだ
きれいな雲雀の歌声に
びっくりするやら 恥ずかしいやら

牧童は白雲を従えて乙女の前へ
空にかかったお日様のように真っ赤に照れる
いとしい人よ すてきな愛の歌をありがとう
いまや僕も一人前 羊を連れて野山を駆ける

幼なじみの君にさえ まだ言わなかった
山のふもとの娘たちには 僕の名前もなかなかさ
幼なじみの君の申し出うれしいけれど
やさしくしてくれる かわいい娘もいるんだよ

幼なじみの君の嬉しい申し出
思わせぶりや いいかげんには受けられない
だからいいます ごめんなさい
この野の花をみな摘むのは羊がたらふく食べたあと

思いの人の冷たい返事に
乙女の顔色みるみる曇り
悲しみの黒雲が彼の人の
大粒の涙を目尻につくる

あーん 馬鹿馬鹿 なんてこと
あんたみたいな浮気者 こっちの方から願い下げ
誰にでもくれてやるから あんたの羊に野の花を
食べさせてしまえばいいんだわ

夏草の道をはるか見渡せば
泣きはらした乙女が走り去る
においたつ若草の野原を分けて
空から落ちる雲雀のよう

走り去る幼なじみの泣き顔に
若い男は心が痛み 胸に手をあて気がついた
近くに居すぎて気づかなかった 思えば彼女も好い娘
男の気持ちはふらふらゆれた

そうと決めれば男は早い
去った乙女を追いかける
においたつ若草の野原を分けて
牧羊犬とおいかける

ちょっとまちなよ アンジェリカ
君みたいな好い娘 僕の方がどうかしていた
誰にも君をやりたくない 浮気心はやめるから
野の花を僕に摘ませてくれないか

思いの人の優しい言葉に
乙女の顔色みるみる輝き
泣きはらしたまなざしに
かすかな微笑みがもどる

やさしい言葉をありがとう
幼なじみの貴方だから さっきの無礼は許してあげる
でも あげるというのに 取らない人には
欲しくなっても あげません

「あげるというのに 取らない人には / 欲しくなっても あげません」と言ったアンジェリカは結局どうしたのでしょうか。残念ながらこの後の部分の詩はありません。でも、なんとなく素朴で可愛らしい感じがします。また、夏草の茂る野原での少年と少女の恋の掛け合いというのも、なんともルネサンス期の気分を反映しているようです。こうした素朴な恋はいまでも生きているのでしょうか。

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白田 秀彰 (Shirata Hideaki)
法政大学 社会学部 助教授
(Assistant Professor of Hosei Univ. Faculty of Social Sciences)
法政大学 多摩キャンパス 社会学部棟 917号室 (内線 2450)
e-mail: shirata1992@mercury.ne.jp